而るに能く逆罪を除滅することは餘行の堪へざる所なり。唯念佛の力のみ有りて、能く重罪を滅するに堪へたり。故に極惡最下の人の爲に、而も極善最上の法を説く。例せば彼の無明淵源の病は、中道府藏の藥に非ずば即ち治すること能はざるが如し。今此の五逆は、重病の淵源なり、亦此の念佛は靈藥の府藏なり。此の藥に非ずば、何ぞ此の病を治せん。故に弘法大師の『二敎論』(卷下)に『六波羅蜜經』を引きて云く。「第三に法寶とは、所謂過去無量諸佛の所説の正法、及び我が今の所説なり。所謂八萬四千の諸玅法蘊なり。乃至有縁の衆生を調伏し純熟す。而も阿難陀等の諸大弟子をして、一び耳に聞きて皆悉く憶持せしむ。攝して五分と爲す。一には素咀纜、二には毗奈耶、三には阿毗達磨、四には般若波羅蜜多、五には陀羅尼門なり。此の五種の藏は、有情を敎化して、度すべき所に隨ひて而も爲に之を説きたまふ。若し彼の有情、樂ひて山林に處し、常に閒寂に居して靜慮を修する者には、而も彼の爲に素咀纜藏を説く。若し彼の有情、樂ひて威儀を習ひ正法を護持し、一味和合して久しく住することを得しむるには、而も彼が爲に毗奈耶藏を説く。若し彼の有情、樂ひて正法を説き性相を分別し、循環研覈して甚深を究竟すべきには、而も彼が爲に阿毗達磨藏を説く。若し彼の有情、樂ひて大乘眞實の智慧を習ひて、我法執着の分別を離るべきには、而も彼が爲に般若波羅蜜多藏を説く。若し彼の有情、契經・調伏・對法・般若を受持すること能はず、或いは復有情、諸の惡業たる四重・八重・五無間罪・謗方等經・一闡提等の種種の重罪をを造れるを、銷滅することを得、速疾に解脱して頓に涅槃を悟らしむべきには、而も彼が爲に諸の陀羅尼藏を説く。此の五法藏は譬へば乳・酪・生酥・熟酥及び玅醍醐の如し。