戯論 いうまじと・・・
言うまじと思えど今日の暑さかな・・・。
夏になると毎日のように繰返すことばである。言うても詮ないことと知りながらもつい 愚痴がでる。凡夫なんだなアと思う。愚痴がやまないから凡夫なのか。凡夫だから愚痴が やまないのか。いづれにしても「仕様のない奴」である。
「寒さなら暖を取る方法もあるんだが・・・」と考えるけれど、いざ、寒くなったらまた暑 いときの方が・・・というに違いない。
ところでこの「言うまじ・・・」という言葉はどんなところにでも使われそうである。
「言うまじと思えど今日の寒さかな」
「・・・とかくままならず」
「・・・またも愚痴がでる」
何にでもくっつくといえば、和歌の下の句で「それにつけても金の欲しさよ」というのが ある。
「連休か。それにつけても金の欲しさよ」これなどあまりぴったりしすぎていぢましい。
「旅の秋。それにつけても金の欲しさよ」少し上品ぶってみたけれど・どうもねエ。
「・・・
「・・・
出てくる。出てくる。いくらでもある。そして「金の欲しさよ」で落ちがつく。なにもこ の世の中「金」ばかりが能ではあるまいと思うてはみるものの・・・。
これも凡夫の浅間しさでしょうか。
ずばり本音を言いましょうか。「言うまじと思えど今日の暑さかな。それにつけても金の 欲しさよ」。
焼きつく日盛りの中に今日も蝉が鳴く。短いいのちなればこそ彼は懸命に今日の一日を せい一ッぱい鳴きつくすのである。 (昭和53年8月)2006年8月28日