颱風さわぎ

ブラジルの農家にとって一番心配なのは霜害である。重要な作物であるカフェー(コー ヒー)は、一度霜にうたれると回復にすくなくとも三年はかかるという。基幹産業である から影響するところも大きい。 だから秋口に入ると早々に話題に上るのはこの冬ジアダ(霜)が来るか、来ないか。な にしろ最大の関心事なのである。「どう言ってみても、(霜が)くるときは来るんだよ」。或 る開教使がこともなげに言ってのけて論議をかもしたことがある。「おっしゃることはご尤 もなれど・・・」である。「わしらの身にもなってごろうじろ」。 甑島で年々颱風のことが話題になるのを見て、わたしは、都度このことを思いだす。さき の論法でいけば「どう言ったってこう言ったって(颱風が)来るときは来る」。それはそう であろうけれど、「あ、来ましたか」では済まされないのである。それほど証り澄まし得る ならば結構だけれど、愚痴とおもいながらもなお止まらないように「明日」を思い煩うの である。 「来るものは来る」とは「事実」の厳しさであろうけれど、それだけに「来ましたね。大 変ですね」と肩を叩き、ともに歎息してくださる。「どうぞ来ないで欲しいですね」と一緒 になって気を揉んでくださる。そうしたおかたが欲しいわたしなのです。 いかがしたものでしょう。 (昭和54年8月)

2006年9月12日