五障三従
すでに言い古されたことばであるが、「戦後強くなったものは女と靴下だ」というのが あった。急激に変動していく諸々の制度の中で殊に男女同権ということが強く打出され、 女性の社会的進出は目覚しいものがあった。この傾向は、いまなお盛んである。事実「女は 強くなった」。いまでは女性上位ということばすら聞かれる。 しかし、である。ン曳のことばのうらに潜んでいるもの底何であろうか。男性側の多分の 僻からくる揶揄もさりながら、足が地についていない前のめりの姿勢に対する警告の響き は聞えないであろうか。 ここ、ブラジル・コロニアにおける開拓初期の模様を聞くにつけて、その背後に一切の 辛苦に堪えつつ黙々と忍従して来られたママイさん(お母さん)方の姿が思い偲ばれる。 それらの方々の忍従の上にはじめて今日のコロニアの繁栄が築かれたのではあるまいか。 女の真の強さをそこに見るのである。 「五障三従」とは、男性の身勝手から押着けられる言葉であってはならない。女性自身が 己れの分限として慎みつつ最下座の場にあって一切を荷負して行く。その姿を菩薩行とし てうやうやしく拝するものとしてのことばではあるまいか。 (1972・7・27)2006年8月8日